部室のドアに鍵をかけようとするあの人に、
「のと先輩」
と呼びかける。
「のと?」
「さのときこ、の二文字目と三文字目で、のとです」
「能登かわいいよ能登?」
「なんですかそれ」
「なんだか知らないけど、鈴木さんが前に言ってた。ネットで流行ってるんだって」
のと先輩は部室のドアを押してみて、鍵がかかっているのを確かめてから、廊下を歩き出す。私も後に続く。
「のと先輩」
「なに?」
なにを言おうか迷っていたら、顧問の植島先生が階段を登ってくるのが見えた。
「ちょっと佐野さん遅いんだけどぉ? 五分前には鍵締めて返してよねぇ」
「すみません。さようなら」
「はいさようなら」
のと先輩は鍵を植島先生に渡す。植島先生は戸締まりを確かめるために部室に、のと先輩と私は階段に向かう。
「のと先輩」
「なに?」
やっぱり、なにを言えばいいのかわからない。勢いで「好きです」とか言ってしまいそうになる。でもそれは違う。
「のと先輩」
のと先輩は黙ってうなずく。
おわり
